レトロゾール -卵質改善を目指して-

レトロゾール (アロマターゼ阻害薬)

元々は乳癌の治療薬として開発された薬ですが、不妊治療分野では副効用の卵胞発育効果を利用します。
保険適応外使用ですが、安全性に関する報告は多数あります。
従来の治療では胚分割不良であった難治性不妊の場合でも、このレトロゾールを使用することで劇的に卵質が改善したケースを経験しています。
北陸ではまだまだ使用できる不妊治療施設が少ないため、当院から積極的に情報発信したいと考えています。

以下はレトロゾールが不妊治療に応用されるきっかけになった論文です。
Use of an aromatase inhibitor for induction of ovulation in patients with an inadequate response to clomiphene citrate
2001年の論文でまだレトロゾールの歴史は浅いです。
一部の施設では慣れない薬だからと敬遠されているようですが、通常プロトコールで結果が出ない場合に一度は試す価値があると感じています。

レトロゾールの作用機序を説明します。

卵子は周囲の顆粒膜細胞と莢膜細胞から栄養を受け取り成熟します。
すなわち、顆粒膜と莢膜も卵子の質を決める鍵を握ります。
レトロゾールは顆粒膜に作用し、エストロゲン合成を妨げます。
一見すると卵胞発育の邪魔をしそうですが、顆粒膜も危機を感じた時に本気を出すようで、FSH受容体を多く出し、結果的に普段より多くの小卵胞がFSHに反応できるようになります。
さらに体内のエストロゲンが下がるため、脳もエストロゲンを上昇させるため卵胞を育てなければとより強いシグナルを出します。

子宮内膜もエストロゲンが下がり危機を感じると本気を出して受容体を増やして、普段より着床能が増す場合があります。

クロミフェンは脳に作用しますが、レトロゾールは卵胞に直接作用できます。
卵胞に直接的な影響を与えられる薬は中々ありません。

全ての機序が解明されている訳ではないのですが、遺伝子発現レベルの変化が生じ、卵子に良い効果がもたらされていると感じています。

いつから何錠内服するか、どの段階で採卵を決めるのか、他薬剤との併用時の注意点など細かいところで経験の差が出る薬です。
今後、症例が集まれば学会発表や論文投稿を予定しています。
採卵するも胚分割不良でなかなか胚盤胞にならない方、初期よりフラグメントが多発して分割停止してしまう方、是非一度ご相談ください。

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